『一億人の英文法』は、大学受験予備校・東進ハイスクール刊行の受験用参考書です。著者はNHKの語学講座でもおなじみの大西泰斗氏、ポール・マクベイ氏。出版元によれば、既に35万部以上を売り上げた人気の参考書です。
『一億人の英文法』は「索引」のない参考書
この『一億人の英文法』は、これまでの参考書とはやや趣向が異なります。「話すための英文法」をモットーに、新しいアプローチで作られた参考書になっています。
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大西泰斗、ポール・マクベイ『一億人の英文法』 |
従来、英文法を扱う参考書の多くは、主に文法事項を網羅した百科事典のような構成でした。そのため、全てのページを読むという人は少ないと思います。わからない文法事項があるときに、「関係代名詞」「仮定法」などと索引を使ってその都度調べる、という使い方が多いのではないでしょうか。
しかし、『一億人の英文法』には索引が付属していません。著者は冒頭で、「できる限り順序よくお読みください」としています。拾い読みでなく、通して読んでほしいということから、あえて索引をつけていないのだと思います。また本書独自の内容構成のため、文法用語によっては従来とは異なる形で表現されていることも、その理由のひとつかもしれません。
※ただし、索引を「東進ブックス」のサイトから別途ダウンロードすることは可能です。一度本書を読破してからダウンロードすることをおすすめします。見直しをしたいときにはやはり重宝です。
英文法はなぜ難しい?
学校で何年もかけて学ぶにも関わらず、「英文法は難しい」という声をよく耳にします。「疑問文を作るにはbe動詞や助動詞を前に出す」「現在完了形はhaveと過去分詞……」などと頑張って暗記した人もいるでしょう。
でも、「なぜそうなるのか」ということは、あまり詳しく習わなかったのではありませんか?それこそが、文法は難しくてわからない、と思わせる理由のような気がします。「疑問文はなぜbe動詞や助動詞が前に出るのか」「なぜ現在完了形はhaveと過去分詞で表すのか」――長年英語を勉強してきても、理由を即答できる人はそう多くないでしょう。
また、疑問に思って誰かにたずねてみても、「そういうものだ。ルールなんだからそのまま覚えろ」と言われてしまったという経験はないでしょうか。理由がわからないまま、ただやみくもに覚えるというのはつまらないですし、結果的に英語そのものを嫌いになってしまいます。
文法用語の解説ではなく、英文法の全体像を学ぶための参考書
英語と日本語とでは根本的に文の作り方が違います。『一億人の英文法』の著者はその点を、「英語は配置の言葉」と表現しています。日本語の場合、主語がどこに来ようが、助詞を使って自在に文を組み立てることができます。
しかし英語の場合はそうはいきません。言葉の位置や順番が、英語においては大きな意味を持ちます。英語学習の大前提として、まずはそうした違いや英語話者の意識を知るべきだということを、この本は教えてくれるのです。
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大西泰斗、ポール・マクベイ『一億人の英文法』 |
また、『一億人の英文法』は参考書というより読み物のような語り口が特徴です。本文の所々に散りばめられたカジュアルでユーモラスな表現には、「飽きずに読めるように」という著者の配慮を感じます。
イラストも多用され、直観的に理解しやすいよう工夫されていますし、例文も実用的なものが選ばれています。文法に関する面白いコラムも豊富に掲載されており、「へぇ、そうだったのか!」と幾度となく感心させられます。
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大西泰斗、ポール・マクベイ『一億人の英文法』 |
『一億人の英文法』は680ページほどの厚い本ですから、全部読むのは大変かもしれません。
ですが、ひと通り読み終えたなら、英文法の全体像・原則といったものが見えてきます。そのうえで細かな文法事項を学べば、「なぜそうなのか」という疑問が生まれても、きっと答えにたどり着くことができるはずです。
中学英語の基本は理解している、という人向け
『一億人の英文法』は、受験生向け参考書ではありますが、英語学習をやり直したい大人にも適しています。ただ、使いこなすには少なくとも中学英語レベルをマスターしていることが必要でしょう。そこまで到達していない人では、この本の良さを実感することが難しいかもしれません。
逆に中学英語まで理解していれば、「中学で習ったあの文法事項にはこういう意味があったのか!」という発見ができること請け合いです。発見は驚き・好奇心を呼び起こし、さらなる学習のモチベーションへとつながります。
英文法の疑問を解消したい、話せるようになりたい――この『一億人の英文法』は、そんな学習者にとっておすすめの一冊です。ぜひ楽しみながら読んでいただきたいと思います。
まとめ
- 従来の参考書とは違い、まるごと読み通すことで英文法の全体像をつかめる本です。
- 読み物のような語り口で、わかりやすいイラストや実用的な例文が豊富です。
- 大学受験対策はもちろん、中級以上のやり直し英語学習者にも適しています。