英語の直読直解とは、「英語を (1)書かれているとおりに (2)頭から順番に出てきた語順のまま理解していくことを言います。
直読直解をマスターするためには地道な訓練が必要になりますが、これができるようになれば日本語に訳しながら読む「訳読訳解」と比較して、英文を読むスピードが上がるばかりか、よりスムーズにリスニングできるようになります。
日本語と英語の文構造の違い※1
まず始めに、日本語と英語の語順の違いを説明します。
日本語の基本的な文構造
例えば日本語で「(1)私は(2)その日のことを(3)はっきりと(4)覚えている」を分解すると、
(1) 私は…名詞(主語)
(2) その日のことを…目的語
(3) はっきりと…形容動詞(形容詞の場合も)
(4) 覚えている…動詞
というように、(1)名詞、(2)(3)目的語や形容詞・形容動詞など主語や動詞を説明する言葉、(4)最後に動詞という語順が一般的です。
英語の場合
その一方で、同じ意味を英語で書いてみるとこのようになります。
I remember the day clearly.
では、上の例と同じように大まかに分解してみてみましょう。
(1) I …名詞(主語)
(2) remember …動詞
(3) the day …目的語
(4) clearly. …形容動詞
というように、動詞が最後に来る日本語と異なり、動詞が主語のすぐ後に来ています。その他の名詞や動詞を説明する部分は後の方、というように、日本語とは語順が異なっています。
日本語に訳しながら読む「訳読訳解」との違い※2
※1で説明したように、基本の文の構造は日本語と英語では大きく異なっています。特徴を言うのなら、以下のようになるでしょう。
日本語…主語は最初に書くが、その後文中に説明する語が書かれる。基本的に名詞や動詞は「前から」説明される。動詞は最後。だから最後まで読んで初めて何をしたかが分かる。
英語…主語の次にすぐ動詞が出て、説明する語は最後の方になり、基本的に名詞や動詞は「後ろから」説明される。何をしたかは文章の最初の方を読めば分かる場合が多い。
このように言語構造に違いがありますから、訳読訳解をするとどうしても英文を後ろから返り読みすることになります。
※1と同じ例文であれば
(1) I …私は
(2) remember …覚えている
(3) the day …その日を
(4) clearly. …はっきりと
と分解して頭の中で日本語に置きかえた上で、次のように日本語の文構造に当てはめていくことになるでしょう。
(1)私は(3)その日を(4)はっきりと(2)覚えている
翻訳者が英文翻訳を行う場合はわかりやすい自然な日本語に直すことが必要ですからこれで良いのです。しかし、一般の学生やビジネスマンなどが英文翻訳とは異なる英文読解を行う場合にはこれではいちいち英文を分解して、しかも理解の順番を変えて読んでいるわけですから、読解スピードが遅くなります。
直読直解では英語の文章の順番に従って読んでいきますから、できるようになれば返り読みをすることはなくなり、読解スピードは飛躍的に伸びていきます。
直読直解ができない理由※3
英語の文章を読む速度が遅い場合、大きく3つの理由が考えられます。
A. 文法力が不足している
B. 語彙力が不足している
C. 英文の内容が高度過ぎる、またはなじみがなくて理解に時間がかかる
このうち、C. の問題点は日本語でも生じます。日本語の本であってもあまりに難しい本やなじみのない本、つまり小学生が大学の一般教養レベルの本を読んでも理解できない場合や、文系の人が医学論文を読んでも理解できないといった場合です。
この問題の解決策はそのテーマに慣れる、知識レベルを向上させるなどという対策になるため省略します。
もう少々ミクロの、テーマではなく英語自体の問題として直読直解ができない理由は A. と B. ですから、その対策を紹介します。
文法力が不足している場合
基本的な学習用の文法書で良いので、まずは一冊読み込んでみましょう。文法書となると途中で飽きて投げ出してしまう人も多いようですが、何事も最初は基礎です。
スポーツで言う走り込みや基礎体力トレーニングと思って、面白くないのは当たり前、まず英文法をマスターしようという気持ちで文法書を一冊読み込んでください。
私も辞書として分厚い文法書は持っていますが、そちらはわからないことがあったときに調べるための参照用で、学習用に使った文法書は今までに一冊だけ、代々木ライブラリー『今井の英文法入門』(現・東進ブックス『今井の英文法教室』)だけです。
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東進ハイスクール・東進衛星予備校の講師である今井宏氏による、英文法教材です。原則として大学受験生向けですが、社会人にも大いに役立つ本です。 かつて代々木ライブラリーから出版されていた『今井の英文法入門 ...
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まだ基本の学習用文法書を選んでいない方は、書店で手に取ってみて解説をさらりと読み、単なる英文和訳になっていない、前から順番に英語を読むヒントが書かれている文法書かどうかチェックしてから選びましょう。今井の英文法教室など、そういうヒントがちりばめられた文法書も増えているようです。
「直読直解の考え方の例※4」で少々詳しく述べますが、文法を勉強する際に「返り読みをせずに英文を頭から順番に読むためにはどう理解すべきか」という観点で解説されている本を使うか、少なくともご自身がそういう観点を持って勉強をすすめることが重要になります。
語彙力が不足している場合
語彙力が不足している場合も直読直解は難しくなります。これも地道ですが、今の自分のレベルよりも少々難易度が高い程度の英文に多く触れるなどしてボキャビルを行っていくしかありません。
英文の中で語彙を覚えるという文脈主義の考え方でボキャビルを行う『速読速聴・英単語』シリーズや、短文の『DUO 3.0』などで語彙力を補強しておきましょう。
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もちろん世の中に存在する全ての英単語や熟語を全部覚えるということは不可能ですので、どうしても分からない語は類推していく必要がありますが、最低限の語彙力は必要です。
直読直解の訓練方法
直読直解の訓練方法は、以下のことに尽きます。
「訳読訳解のように返り読みをしないクセをつける、返り読みをしないことを自分に強制する」
直読直解は頭で考えながら行うものではありません。英語細胞や英語脳とはよく言われますが、英文を読むときは英語モードに頭を切り替えるという言い方がイメージしやすいでしょうか。
このように返り読みをしないためには、地道ですが以下のような勉強方法を積み重ね、無意識に英語を頭から順番に、語順どおりに読めるという訓練を積んでいくしかないと考えます。
1. リスニング
2. 音読
3. シャドーイング
この順番です。
直読直解に関しては頭で考えてどうこうというよりも、無意識でできるかどうかという問題ですから、地道なトレーニングは欠かせません。
スポーツに例えるならば、無駄のないランニングフォームが意識しなくてもできるかなどといったレベルの話ですから、徹底的に反復練習をして頭と体に染み込ませる必要があります。
特に音読やシャドーイングでは意味を考えながら読むのは当たり前ですが、日本語に訳しながら読む返り読みは基本的にできませんから、直読直解レベルに到達するためのトレーニングとしては最適です。
音読では少々難しい英文は読むスピードを落とすということもできますから、基礎トレーニングに向いています。 英語学習における音読とは、「英文を見ながら、声に出して読む」ことを言います。音読は単なる発音練習ではなく、以下のような効果を得ることができます。 音読の効果 英語を英語のまま理解する土台を作る 日本人 ... 続きを見る
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また、シャドーイングは読むスピードがナレーターのスピードに固定されますから、リスニングも含めたより実践的なトレーニングと言えます。 シャドーイングとは、「聞いた英語音声を、英文テキストを見ずに、音声の後について発音すること」を言います。音声に遅れずに、という点で音声を聞いた後でワンポーズ置いてから発音するリピーティングとは異なりま ... 続きを見る
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返り読みを禁じる読み方を自分に課しながら練習を繰り返すことで、直読直解レベルに少しずつ近づいていきますから、急がば回れのつもりで繰り返してください。
直読直解の考え方の例※4
※3で述べた地道なトレーニングの際に、役立つと思われる考え方を一つ紹介します。
※2で述べたとおり、英語は基本的に「後ろから」詳細を説明する言語です。
そのため、考え方は、一つの文章を読み始めたときに詳細が分からなくても、後ろを読めば詳細をつかめるというイメージであまり気負わずに練習を繰り返すことが基本になります。
私の頭の中の一例ですが、以下の文章をどのように理解しているのか説明します。
文法の詳細な解説は省きますが、すでに英文例で出した
I remember the day clearly.
を変形させて、少々長い文章にしてみます。
I remember the day when I first met you.
(私はあなたに初めて会った日を覚えている)
when 以下は the day を後ろから説明しています。
直読直解では the day(その日)はどんな日なのか、when 以下を読めば分かると考えて読み進めることになります。
私はスラッシュリーディングということをしませんから、この説明では少々説明が分かりにくいかもしれません。念のためスラッシュを入れて読んでいく方法でも説明します。
I remember the day / when I first met you.
ここで、when 以下は、関係詞を使って the day を後ろから説明する副詞節になっています。
関係詞を使った英作文をする場合は以下のとおり2文に分けて考えています。
I remember the day.(私はその日を覚えている)
という文章と、
I first met you on the day (私はその日あなたに初めて会った)
という2つの文章を、関係副詞whenを用いて1文にするわけです。
2つ目の文章の on the day を when に変えて、
When I first met you.
として、1つ目の文章の後ろにつなげれば1つの関係詞を使った英文になります。
そのため、スラッシュを入れる時は the day の後ろ、when の前に入れて文を区切り、when 以下はthe day を説明する副詞節として読んでいくということになります。
まとめ~直読直解の読み方を達成するために
※4では少々文法的な説明をしましたが、このような英文構造を意識しないで見抜き、頭から読んでいけるようになるためには、ある程度の文法知識が必要です。
また、あまりにも語彙力が不足しておりいちいち辞書を引かなければ英文を読めないという段階ではやはり難しいでしょう。
そのため、まず直読直解は誰でもいきなりできるというものではないことを念頭に置いて、ある程度気長に、気楽に訓練を続けていただきたいと思います。
どのように英文構造を分析すれば良いかという観点で文法を学習し、ボキャビルのための単語集やリーディング教材等を多く音読していけば、あるときグンとレベルアップして直読直解レベルに到達できるものだと考えています。
私の場合は実際に文脈主義の英単語・熟語集などを音読し続けていたら、ある時突然「そういえば頭の中で日本語に訳さないでも読めるようになったな」というレベルに到達したという印象です。
直読直解している人の頭の中での意味の取り方を紙面で紹介している教材にZ会『速読速聴・英単語 Core 1900』の読み下し訳のパートのようなものもありますから、こういった本も参考に訓練を積んでいきましょう。
編集長からひとこと
一つ付け加えるとすると、英語脳?を作り上げるには英語で英文法を解説している洋書の英文法書を使うのも効果的です。私自身は、洋書で英文法を勉強することで、英語を英語のまま考える英語脳?のようなものができた記憶があります。ご参考までに。