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【レビュー】対訳ヘミングウェイ 1:ハードボイルド文学の先駆者ヘミングウェイの作品が対訳形式で楽しめる

ヘミングウェイの短編の原文を収めた対訳本です。簡潔を旨としたヘミングウェイの文章は英語学習者にとって敷居が高くなく、英語の小説に初挑戦したい方にお勧めです。

対訳ヘミングウェイ

ハードボイルド文学の先駆者ヘミングウェイとは

ヘミングウェイは「失われた世代」を代表する作家で、現代人の喪失感や虚無感を描き、後年の作家に多大な影響を与えました。また冒険的な素材や、事実を冷徹に見つめた独特の文体によって、ハードボイルド文学の先駆者とされています。

第一次世界大戦に従軍し、ボクシングや釣り、狩猟を愛したヘミングウェイは、体を鍛えることに余念がありませんでした。恋愛経験も豊富で生涯に4人の妻を娶りました。数々の体験をもとに繰り出されたヘミングウェイの言葉に胸を打たれる人も多いはずです。

In order to write about life, first you must live it!
人生について書くためには、まず生きなくてはならない!

現実を冷笑的に捉えていたかのようなヘミングウェイですが、その奥底には、生きることへの真摯な想いがありました。胸に熱情を秘めていたからこそ、タフでクールでなければならなかったのでしょう。ヘミングウェイの人柄や生き方そのものが、まさにハードボイルドだったと言えます。

掲載作品と簡単なあらすじ・特徴

『殺し屋』
殺し屋たちと追われる男、幼年時代の作者の投影であるニックらの心理を科白(せりふ)から読み取りましょう。極限的に説明が省かれており、まるで映画の脚本のようです。

『清潔な灯の明るい店』
生きることに虚無的な老人と同調的なウエイター、彼らとは対照的な若いウエイターの一夜が描かれています。

『インデアン部落』
再びニックの登場です。人間の誕生とその壮絶さに直面します。

『雨の中の猫』
猫好きだったヘミングウェイが作品の中で猫をどう扱うのかお楽しみください。

『敗れざる男』
名作『陽はまた昇る』と同じく、闘牛や闘牛士を扱っています。闘うことに崇高さを見出しながらもそこに耽溺しなかったヘミングウェイの、冷静な筆致が味わいどころです。

『フランシス・マコーマーの短い幸福な生涯』
アフリカで猛獣狩りに挑戦するフランシス・マコーマーとその妻、ガイド役のイギリス人の微妙な三角関係が描かれていますが、主題はフランシス・マコーマーの変遷です。

英語だけでなく「日本語」の勉強になる対訳

左ページに原文、右ページに日本語訳が対応するように掲載されているのが南雲堂対訳シリーズの特徴です。

リーディング本ではおなじみの「英和対訳方式」
対訳ヘミングウェイ_01 対訳ヘミングウェイ_02
南雲堂『対訳ヘミングウェイ 1』

『対訳ヘミングウェイ 1』の日本語訳に関して言えば、ヘミングウェイが生存中の1959年に初版が発刊されているだけあり、非常に時代を感じさせるものになっています。

例えば「ボクシング」ではなく「拳闘」、「とびきり」ではなく「飛切」等が使われています。若い人が日本語訳を当てにして読もうとすると、かえって混乱するでしょう。よって、大まかな筋をつかみながらどんどん原文を読み進め、日本語訳は時々文脈を確認する程度に利用することを推奨します。

一方、英文学を学ぶ人は初歩の注釈書として扱うこともできますし(158ページ目の’four letter man’は、英語使用者にとっても解釈が難しいようです) 、文芸翻訳者を目指す人にとっては使い勝手のよいトレーニング教材になるでしょう。

また日本語の文章を読み慣れた人が、英語に親しむきっかけを得るために利用するのも手です。それぞれの言語の利点や特徴に気づく機会となります。

シンプルだからこそ味わい深い名文

その作品をもとに多くの映画が製作されたことが示すように、ヘミングウェイの紡ぎだしたストーリーは第一級のエンターテイメントでした。『対訳ヘミングウェイ1』に収録された短編小説に関しても、その予測のつかない展開に、胸を躍らせること必至です。

余計な装飾をそぎ落とした簡潔な短文によって成り立つヘミングウェイの文章は、語彙のレベルも高くありません。TOEICスコアが650以上あれば挑戦できるでしょう。TOEICスコアが800以上あれば、ハードボイルドな原文の魅力を堪能できるはずです。

余計な装飾をそぎ落とした簡潔な短文
対訳ヘミングウェイ_03 対訳ヘミングウェイ_04
南雲堂『対訳ヘミングウェイ 1』

ただし、小説を読むことに面白さを感じない人や、TOEICのスコアを今すぐ上げたいといった人が英語の小説を手にすることはお勧めしません。

原書で小説を読む醍醐味は、生の英語に触れることやストーリーそのものを楽しむことにあります。読書を楽しんだ結果として本物の英語力が身につきますが、即効性は期待できません。

一方純粋に読書を楽しみたい人や、受験や資格・検定にこだわらず英語の学習に取り組んでいる人、あるいは時間に余裕があって勉強の合間に息抜きがほしい人は、ぜひ英語で小説を読んでみてください。

翻訳とは違い、直截的に作者の世界観を味わうことができる楽しさに病みつきになるかもしれません。ヘミングウェイは活字中毒のあなたに、至福のひと時を与えてくれます。

まとめ

  • 英語の文章としては難易度が高くなく、中級者以上が取り組めるレベルです。
  • ヘミングウェイの名文をダイレクトに味わえます。
  • 小説好きにはたまらない、全作品が折り紙つきに面白い短編集です。

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