エドガー・アラン・ポーの短編、「黒猫」と「リジーア」、「盗まれた手紙」を対訳式で読むことのできる本です。
有名作品を原文で読んでみたいけれど何から手をつけて良いか分からないという人には良い入門になるかもしれませんが、この本を手にする上ではいくつか注意するべき点もあります。
少し古い英語と、それに対応した日本語
エドガー・アラン・ポーは1809年1月19日生まれ、1849年10月7日没の作家です。その活動時期は日本で言えば江戸時代後期であり、かなり古い文章であると言えます。
そのため英語は現代的ではなく、所々には現代英語と比較して分かりにくい表現や現代英語では珍しい表現も散見されます。これに対応した日本語も少し古めかしく、また対訳に合わせて逐語的になっているため、訳した日本語が読みにくいと感じる面もあるかもしれません。
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南雲堂『対訳ポー』 |
ただ、だからといって現代英語と大きく異なる表現や文法が多くあるわけではなく、読み進めていく上での致命的な障害にはならないと考えられます。
参考書としてはやや不十分な面も
英語学習の参考書として見た場合、日本語訳の行間の狭さや注釈の少なさ、説明の不十分さなど、難点も見られます。また、対訳ではあるものの、英語のどの部分が日本語のどの部分に対応しているかは初学者には分かりにくい可能性があります。
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南雲堂『対訳ポー』 |
以上を踏まえると、「ポーで英語を学びたい」という人よりも、「ある程度英語ができるようになってきたし、ここらで名作を原文で読んでみたい、ポーなんてどうだろうか」という人の方が『対訳ポー』を有効活用できるのではないでしょうか。
短編の面白さは流石のもの
学習書として見ると若干の難が見られる本書ではありますが、収録されている短編は流石に文豪の名作、引き込まれるものがあります。
特にエドガー・アラン・ポーは、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズや、日本なら江戸川乱歩の著作の先駆けとなっているものでもあり、ミステリーが好き、という人であれば決して避けることのできない作家の一人です。
そんなポーの著作のうち、特に読みやすい短編を集めたものなので、原文のポーの入り口にはちょうど良い本であるとも言えるでしょう。もし、日本語訳が読みにくいと感じられるのであれば、他の訳者のポーの翻訳を読んでから原文や訳文を比較するのも良いかもしれません。
まとめ
- 英語表現が古く、伴って日本語訳も古めかしいため読みにくいところがある。
- 現代英語と大きく乖離した表現はないが、それでもある程度英語をかじった人向け。
- 学習書としては難があるものの、作品の面白さは折り紙付き。
大型書店の学習書コーナーの片隅にひっそりと置かれている南雲堂の英文学シリーズのひとつです(1年で何冊売れているのだろうか…)。一般的な学習者でポーの原文を読みこなせるのであれば、相当な上級者ですね。TOEICの勉強ばかりしている層だと、たとえ900を超えていたとしても対訳を参照しないとまず読めません(笑)。大学や大学院で英米文学を専攻している層が購入するのかなあ。