『シャーロック・ホームズを読んでみよう』のコラム、第2回はRed-headed League(赤毛連盟)を掘り下げてみましょう。数あるホームズの短編の中でも特に有名な本作は、全体に張り巡らされた大胆なトリックが単純明快にして爽快である一方、シャーロキアンとしての研究しがいがある一品でもあります。
http://amzn.asia/d/cFFA0K8
物語のあらすじ
その脳細胞を活性化させられるような奇妙な事件を待ち望んでいたホームズのもとに、ある日望み通りに奇妙な依頼が持ち込まれます。燃えるような赤髪の男は、その赤髪を認められて『赤毛連盟』という謎の団体に所属していて、辞典の内容を書き写すという意味があるのか無いのかわからない仕事のために高額の報酬を受けていたというのですが——。赤毛連盟の正体や、ホームズが見抜いた偉大なる陰謀は、きっとあなたにとっても意外な結末のはずです。
物語序盤、赤髪の男を一瞥しただけで男の素性を一瞬で見抜くホームズの観察眼とその推理は、まさしく『シャーロック・ホームズ』を感じさせるに充分なシーン。また、ホームズとワトソンが実際に手がかりを求めて街中を調べるシーン、解決に際して現れるレストレード警部、シャーロック・ホームズの手腕に疑問を呈する第三者など、シャーロック・ホームズの物語と聞いてイメージする『お約束』がたくさん盛り込まれたシナリオになっているため、シャーロック・ホームズを存分に堪能できる短編として、最初に読む一冊にもオススメされやすい物語でもあります。
原文の赤毛連盟
原文の赤毛連盟は、他のホームズ作品と比べても比較的読みやすいものとなっています。特別な専門知識も必要ありませんし、冗長で分かりにくい文体ということもありません。ただ、基本的にシャーロック・ホームズは最後の最後まで真相を明かさないので、そういった意味では『今何が起こっているのか』を理解できないまま読み進めていくことになります。この感覚のために、読んでいく中でどうしても釈然としないような気持ちになるところもあるかもしれませんが、それは英語力の問題ではなく、シャーロック・ホームズシリーズにおける『ジョン・ワトソンの気持ち』の追体験だと思えば良いでしょう。
ただ、シャーロック・ホームズの時代背景を考えて読まないと、誤読しやすい部分もあるかもしれません。例えばcabという単語が出てきたら、それはタクシーではなく馬車を意味します。そういった単語の違いや当時の文化的背景については、読んでいく中で調べる必要があるという場面もあるでしょう。
翻訳の赤毛連盟
赤毛連盟には、物語の後半部分に英語独特の表現が含まれる箇所があります。翻訳版では、そこがどのように翻訳されているか(そのまま残してあるか、それとも日本語的表現に変えてあるか)というところに注目すると面白いかもしれません。
原文は、全体として文学的表現は多くなく、それ以外の点では翻訳の差が生まれにくい作品でもあります。しかし、ワトソンが相当の文字数を割いてシャーロック・ホームズについて『分析』している場面もあり、ここをどのように訳すかは翻訳版の違いを見る上で楽しみにできるポイントではないでしょうか。
概して読みやすい原文であることから翻訳版も読みやすいものになっていることが多く、シャーロック・ホームズの入り口としてオススメ度の高い一作であることは翻訳版においても間違いありません。
シャーロキアン的読み方
赤毛連盟については、物語の展開に構造的欠陥があると指摘する人も居ます。奇想天外なトリックであるだけに、多くのシャーロキアン(【シャーロック・ホームズを読んでみよう】第1回を参照のこと)がこのトリックに疑問を呈することとなりました。
では、どうすればこの物語は成立するのでしょうか。この物語が成立するために、筆者であるワトソンが意図的に隠した真実とは何だったのでしょう。赤毛連盟のトリックは、実はワトソンの伝記の中で語られるシャーロック・ホームズが暴いたもので全てではなかった可能性があるとしたら、それはどんなトリックだったのでしょうか。この物語は、あなたがシャーロキアンとして第一歩を踏み出すための物語にも成り得るのです。
ここではネタバレを避けるため、あえてトリックの根幹は触れずに筆を置くとしましょう。果たして赤毛連盟の手記に隠された物語の構造的欠陥とは何か。それが成り立つとすれば、隠された真実は何だったのか。赤毛連盟は、そうして今なお人々に『謎』と、それをめぐる『冒険』を残しているのです。
http://amzn.asia/d/cFFA0K8