『英語で読む五輪書』は江戸時代初期の剣豪にして二天一流の開祖、宮本武蔵が著した『五輪書(ごりんのしょ)』を英訳したリーディング教材です。
五輪書は単なる武術指南書ではなく、ビジネスや生き方への示唆に富む
宮本武蔵については多くの人がご存知かと思います。近年では井上雄彦氏の漫画『バガボンド』の主人公と言うと通りが良いでしょうか。彼に関する著作は多くの人に読み継がれています。
吉川英治の小説『宮本武蔵』は傑作として有名ですし、大山倍達がこの小説に感銘を受けて若き日の心の支えとし、極真空手を創り上げていく原動力になるなど、多くの人に影響を与えています。
『五輪書』は宮本武蔵が著した兵法書で、地、水、火、風、空の五巻(五輪)から成っています。単なる武術指南書や剣の心得を説いているという本ではなく、ビジネス上でも役立つ考え方や示唆に富んだ書物です。
例えば「拍子(タイミングのこと)」は全巻通じて良く書かれている概念ですが、これは単に剣の打ち合いや間合いなどのことにとどまらず、交渉の場面などビジネスや人間関係においても役立つ考え方がちりばめられています。
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宮本 武蔵『英語で読む五輪書』 |
これらの概念が論理的に、武道家らしい簡潔かつ合理的な文章で書かれており、全体的な大意が取りやすい書物になっています。
そのため、『五輪書』はブルース・リーなどの武道家に愛読されるだけではなく、ハーバードビジネススクールの教材としても取り上げられるなど、ビジネスマンへの推薦図書ともなっています。
英文読解における「初見の概念」の推定練習としての利用がおすすめ
本書は左ページが和文と重要語彙の意味、右ページが和訳となっているのは、類書である「英語で読む織田信長」などと同様の構成です。和訳は現代語で書かれています。
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宮本 武蔵『英語で読む五輪書』 |
英文レベルは原書が分かりやすい話の流れで書かれているため、論理把握を行うことはTOEICレベルで600~650ほどの方であれば、英文の中で多少わからない語彙があってもさほど苦労しないでしょう。
一方、「懸の先」という言葉が”initiative”と英訳されているなど、武道独特の概念や古語の言い回しの英語表記がわかりづらいこともあるかと思います。しかし、これは英語学習という観点からみると利点でもあります。
英検に挑戦する、TOEICやTOEFLのハイスコアを目指すために学習している場合は、問題になじみがない初見の概念やテーマが含まれている場合に、英文の前後の文脈だけを頼りに推定する必要があります。
ある程度の実力のある中~上級者にとっては本書で書かれているような独特の概念や言い回しを、和訳を参照せず英文で推定していくことで、単語レベルではなく初めて触れるような概念の把握の練習にもなります。
本書全体の構成は各巻の末尾に「覚えておきたい英語表現」や「コラム」が書かれています。「覚えておきたい英語表現」の方ではその巻の英文で登場する語法などから重要なもの、盲点になりやすいものを紹介しています。
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宮本 武蔵『英語で読む五輪書』 |
「コラム」では五輪書の内容の解説や関連書籍の紹介がなされており、より幅広く、より深く五輪書の考え方を学んでいく指針が示されています。
男性の声ではっきりと発音された吹き込み音声のCDが付属
IBC対訳ライブラリーのシリーズで共通ですが、CDにはMP3ファイルが格納されているので、通常のCDプレーヤーでは再生できません。パソコン上でMP3ファイルをコピーして、パソコンやMP3プレーヤー等で再生する必要があります。
吹き込み音声の速度は約140語~150語/分で、英語教材に収録されている音声としては標準的なものです。全編に渡って、発話者は男性となっています。語学音声らしいハッキリとしたメリハリのある発音で聞き取りやすくなっています。
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宮本 武蔵『英語で読む五輪書』付属CD(1枚組) |
英文のレベルは比較的高い(TOEIC600~750程度の中級者でも不明な単語はそれなりにあります)ので、いきなりリスニングをして理解することは難しいです。まずは読解で内容を把握したあとにリスニング学習を行うことをお勧めします。
まとめ
- 宮本武蔵の『五輪書』を英訳したリーディング教材。
- 単なる武術指南書ではなく、ビジネスや人間関係にも役立つ考え方が満載。
- 文脈や論理構造は簡潔でわかりやすく構成。
- なじみのない概念を和訳参照なしで推定することで、概念把握トレーニングになる。