最難関私立大学の一角、慶応義塾大学の赤本です。大学受験では最高レベルの難問が多数収録されています。
慶應義塾大学の英語入試問題の特徴と構成
慶應義塾大学の英語は、学部間で非常に差があります。読解問題の量・語彙レベルともに高度であるのはどの学部も同じですが、問題の傾向が学部ごとにかなり違います。
たとえば文学部の読解問題では辞書使用が許可されている代わり「歴史とは何か」「感情とは何か」というような抽象的・哲学的で難解なテーマが出題される、法学部については討論やインタビューがテーマとして出題されることもあるなど、問題形式だけでなく内容も学部間でバラバラです。
学部間の問題形式による傾向は以下の図のとおりですが、特に読解問題に関しては英語力プラスアルファの対応力が求められているのは全学部共通です。
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教学社『慶応の英語』 |
学部ごとの問題形式や問題のテーマの内容の詳細は割愛しますが、全体的に入学後に必要と思われる素養(知識ではありません)をきかれているという印象を受けます。
大学合格だけが目標ではなく、英語に限らず入学後にどのような学習をしたいのかということを意識しながら入試対策をすることが必要になるでしょう。
英語自体の学習方法については基本的には別記事「難関大学受験生には必須の『赤本』に取り組むまでの英語勉強法」の方で説明している方法で対応できますが、プラスアルファの対策も必要になります。 この記事では、大学受験生向けに英語の勉強方法の概説、具体的には大学入試の過去問であるいわゆる「赤本」に手をつけるまでにどのように勉強すれば良いか提案します。 私が大学受験生の時、受験勉強をしていた期間 ... 続きを見る
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なお、私見ですが文法・語法問題は商学部がほぼ毎年出題されており、その出題形式は全学部に応用が利くと思われます。全学部で求められる英文読解力の問題も、商学部が多くなっており難易度・長さもちょうど良くテーマも経済・政治・科学まで広くカバーしています。
また、医学部の長文読解問題は理系だけではなく文系テーマも扱われ、論旨も明快かつ分かりやすい論説文が多いためパラグラフリーディングをはじめとした長文読解問題の練習には最適です。
そのため、他の学部を志望している受験生でも慶應の問題形式に慣れるため、また総合的な英語力の底上げを考えるために、志望学部の過去問に加えてこの2つの学部の過去問を練習しておくことをおすすめします。
慶應大学英語に対する全般的な対策
慶應の英語においても「難関大学受験生には必須の『赤本』に取り組むまでの英語勉強法」の記事で紹介した勉強方法を基本にしておけば合格ラインには到達できます。
ただし『速読英単語・上級編』(Z会)も、文系学部を受けるのであれば6~7割程度は最低マスターしておきたいところです。
これに加えて長文読解問題に関しては志望学部の過去問から始め、類似の傾向を持つ学部、また早稲田・上智の過去問も合わせて解き、音読しておくことまでやれば本番でもある程度余裕をもって解答できるレベルに到達できます。
文法・語法に関しては市販の問題集を数多く解くのをできるだけ早い段階で行うこと、可能であれば受験本番の半年前には市販のメジャーな問題集はやってしまって、慶應の過去問及び上智の類似問題で問題練習をしておきたいところです。
なお、早稲田大学の文法問題はややクセのある出題をしますから、後回しでも良いでしょう。前置詞のイメージがわきにくいなどの不安要素があれば、わざわざ早稲田の過去問に手を出さなくても、それに特化した参考書や問題集で対応できます。
学部別の傾向と対策(法学部・経済学部・商学部)
法学部(制限時間80分)
法学部ではアクセント・発音問題の出題が比較的多いということが特徴になっています。知っていれば解ける、知っていなければできない問題ですが、普段の音読学習で意識していれば特に難しくはないでしょう。
文法・語法問題は誤りのない文章を選ぶ問題が多いですが、レベルは高くありません。文法の参考書を一冊マスターして、問題集を多めにしておけば良いので取りこぼしは許されません。
読解問題は会話文・インタビュー分・討論文が多く出題されます。問題形式は空所に適切な語句を補充していく問題が多いですが、文法知識・読解力を総合的にきかれるため、フレーズ暗記型の勉強では対応できません。
ただし、読解問題の英文量は慶応大学の中でも少ない方ですから、制限時間はあまりタイトではありません。それよりもテーマが大学受験レベルとしてはやや高度ですから、普段から社会・政治系の記事に触れておくことは必要になるであろうと考えます。
試験対策はオーソドックスな方法で十分です。基礎力をつけ、過去問練習をし、予備校などの予想問題をしてそれらをマスターしておけば十分だと思われます。
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経済学部(制限時間100分)
経済学部ではかなりの長文問題が出題されることもあります。設問自体は素直な出題が多く、意地の悪いひっかけや重箱の隅をつつくような問題は出ませんが、素早く文意をつかむ能力が求められています。その意味で、上智大学の英語に近いと言えるでしょう。
他に特徴的なのは、200語強程度の自由英作文問題です。自由英作文問題は長文問題の内容に対しての意見を述べるものが多く、大学受験レベルではかなり厳しい問題になっています。
その他文法・語法問題も出題されることもありますが、文法・語法は市販問題集のハイレベルまでカバーしたものをやっておけば十分でしょう(これは全学部共通で言えることですが)。
経済学部の対策としては長文の文意を素早くつかむ訓練をすること、それに関して意見を述べる訓練をしておくことが必要になります。上智大学の過去問を利用して長文問題の速読力を高めるのも良いでしょうし、一橋大学などの出題テーマが比較的類似している大学の過去問にあたるのも良いでしょう。
商学部(制限時間90分)
商学部は大問が7~9問とかなり多くなっています。そのうち約半分が長文読解問題となっています。そのため、時間内に全部解ききるのが大変と思いがちですが、出題テーマに偏りがなく広範なテーマを扱っていることから、かなり取り組みやすい出題形式です。
基礎的な勉強、具体的には別記事「難関大学受験生には必須の『赤本』に取り組むまでの勉強法」の勉強方法をしっかりやっておけば対応できる問題ばかりです。
制限時間は90分とややタイトですが、音読ペースでの読解で十分間に合います。既述式英作文問題はほとんど出題されません。
上智大学の英語との共通点が多く制限時間も同じなので、上智大学の過去問にあたってみることも読むスピードを上げる訓練になるでしょう。
学部別の傾向と対策(理工学部・医学部・薬学部)
理工学部(制限時間90分)
理工学部は文法・語法問題、それも空所補充問題・語形変化問題が出題され、かなりのウエイトを占めていることが特徴です。
読解問題も出題されますが、長すぎるような長文は出題されず、論理もストレートです。丁寧に文脈を追っていけば正解にたどりつくのは難しくありません。
理工学部に関しては正確な文法知識を身に付けておくことが最優先です。文法の参考書を一冊やって、Z会『速読英熟語』で実際の使われ方を意識しながら覚えておきましょう。
語彙に関しては標準的のため、『速読英単語・必修編』掲載語のマスターと過去問で十分かと思われます。
医学部(制限時間90分)
医学部は読解問題が半分のウエイトを占め、他に自由英作文がおおよその傾向となっています。
読解問題の英文は長すぎるということも短すぎるということもなく、テーマの偏りもほぼなく、さらに論理構成もストレートでわかりやすいので特に他学部に比べて難しいということはありません。(それでも大学受験レベルとしてみるとかなりのものではありますが…)
理工学部向け勉強方法にプラスアルファして、速読英単語・上級編までやっておけばそれ以上市販の単語集に手を出す必要はないでしょう。
自由英作文に関しても特に理系の基礎知識がないと書けない問題というものは全く出題されておらず、テーマに関して難しいということはないでしょう。
ただし、「視点を変えて書け」といったひねりのある出題がされることもあるあたり、客観性を非常に重視する出題と言えます。
読解力の向上トレーニングの一つですが、国語の現代文や英語長文の問題を解きながら、別の立場に立つとこういう考え方もあるのではないか、などと考える訓練をしておけば対応は難しくありません。
また、加点を狙って高度な語彙や難解な構文を使わない方が良いのは他の自由英作文が出題される大学や学部と共通です。
薬学部(制限時間80分)
薬学部は長文読解が7割~8割を占めます。全問題が長文読解問題の形式で、その中で文法・語法などをきく年もあります。
長文読解問題のテーマは理系の場合が多く、医学部と比べてもかなり専門的な英文が出題される傾向が強くなっています。
理系の学部では英語を不得意とする受験生も多いですから、ここで差がつく場合も多いでしょう。
薬学部は医学部とは異なる対策を取る必要があります。英語で基礎力を固めたら、徹底的に過去問を読み込んで専門的な英文に慣れておきましょう。
もし英語を得点源にしたいならば、Z会『テーマ別英単語 ACADEMIC 初級』の自然科学分野の英文を読んでおくことも良いでしょう。
なお、このシリーズの中級以上の自然科学編までやってしまうと大学受験生レベルとしてはやりすぎです。
時間と労力の無駄になってしまう場合がありますから、そこまでは手を出さずに今までやってきたことの完璧な復習と、他の受験科目の勉強に時間を振り分けた方が有利でしょう。
学部別の傾向と対策(看護医療学部・文学部)
看護医療学部(制限時間90分)
看護医療学部は、長文読解問題や文法・語法問題が中心です。読解問題のテーマはさほど難しいものではなく、また薬学部のような偏りもありません。
文章量も少なく、慶應の中ではかなりやりやすい部類の問題です。文法問題も難しくはないため、市販のスタンダードな参考書・問題集を一冊仕上げておけば十分対応できるレベルです。
看護医療学部では意見を述べるタイプの自由英作文が課されますがあまり恐れるほどの難易度ではないと思われます。
ただし、自分の意見を述べるだけではいけません。結論を述べ、根拠で補強していくという英語の基本構成を守って客観的に書いていけば怖い問題ではありません。
文学部(制限時間120分)
文学部では、電子辞書を除く辞書の持ち込みが認められています。
これはつまり、「一般的な慶應受験生のレベルでは辞書なしで解けないような問題」が出題されているということでもあります。
それだけに長文読解問題は全体の7割~8割を占めており、テーマも抽象的・哲学的な問題ばかりで大学受験レベルとしては最高レベルと言えます。辞書なしで読みこなせる受験生はほとんどいないかもしれません。
ただし、文章自体はさほど長くはありません。「読んで・理解できれば解ける」のですし、辞書の持ち込みも許可されているのでじっくり解いていけば十分対応できます。
また、長文読解問題の中で英文和訳、英文法問題が出題されていることも多く、ここでの取りこぼしは絶対に許されないと思ってじっくり解いてください。
文学部用の特段の勉強法といったようなものはなく、基本的な勉強を積み重ねて過去問を十分に検討する(検討時に辞書を使いながら時間を計ってみましょう。意外と速く辞書をひけないこともあります)、といった勉強をどれだけ積み重ねてきたかが勝負と言えます。
学部別の傾向と対策(総合政策学部・環境情報学部)
総合政策学部及び環境情報学部(SFC。制限時間120分)
1000語を超える長文読解問題が2問出題され、他には500語程度の読解問題が1問という構成が基本です。出題形式は空所補充のマーク式試験です。
1000語を超える長文読解問題というと、それだけでしり込みしてしまう受験生もおられますが、1分に100~150語程度の音読ペースで読んでいけば大問1問当り読解にかかる時間は約10分弱、文意の把握や整理・解答にかかる時間まで考えても20分で終えることもできる試験形式です。
英文テーマでは環境情報学部でやや理系分野の出題が多く、総合政策学部ではテーマを選ばないという傾向はあるものの、文学部・法学部と比較すると英文自体が高度すぎて解答できない、などということはありません。
長文の英文量は確かにかなり多いですが、音読を積み重ね、パラグラフリーディングの練習を十分してきた受験生にとっては全く恐れることはない程度の問題であろうと言えます。
社会人が慶應大英語に取り組む意味
以上のとおり慶應大学については学部ごとに記載しましたが、社会人が慶應の英語に取り組む場合は他の難関大学の問題に取り組むのと目的は同じ、「長文に慣れる一環として」と考えるのが良いでしょう。
以上の学部ごとの傾向を参考に、興味のあるテーマを扱っていそうな学部の問題を多読用に読んでみるのが良いでしょう。 現代の大学入試では英語の配点が高くなっています。国公立大学文系であれば大体の大学で二次試験は英語と国語・数学の配点が同程度ですし、私立大学文系であれば英語に他の科目の1.5倍~2倍程度の配点が割り振ら ... 続きを見る
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