英検1級・TOEIC900取得者のリアル
私は、数年前に英検1級と、TOEIC900超のスコアを取得しました。世間一般でいえば、英語上級者と言われるカテゴリに入るでしょう。ですが、ネイティブスピーカーや帰国子女並みに英語ができるかといえば、全くそんなことはない、と思っています。
私は日本生まれの日本育ち、留学経験も海外勤務経験もありません。地方の公立高校から国立大学に進んで、ごく一般的な英語教育を受けてきました。英検1級を受けるにあたっても、ほぼ独学で勉強し、語学学校などは行きませんでした。
勉強を続けたおかげで、滑舌のよいクリアな発音の英語教材や、TVのニュース音声なら聞きとれますし、英字新聞やペーパーバックなども、時折辞書を引きながらですが読み進むことはできます。ですが、ネイティブスピーカー同士の早口の会話についていくのは苦労しますし、洋画を楽しむには字幕が必要です。話すときにも、母語である日本語の表現・文法に影響されて、とっさにうまく言葉が出ず、詰まることもよくあります。あるいは難しい単語がわかる一方で、身近な日用品の単語や、スラングに戸惑うことも…。そのあたり、やはり帰国子女のほうが有利かなという気がします。
英検1級に受かるということ
「えっ、そんな程度で英検1級に受かるの?」と思われる方もいらっしゃるでしょう。実は、英検やTOEICなどのスコアは、必ずしも英語力の絶対的尺度とはなりません(もちろん、判断の材料にはなりますが)。
英検やTOEICなどの検定試験を攻略するには、英語力だけでなく、試験の「傾向と対策」を知ることが非常に重要です。つまり、ただ英語がペラペラなだけではダメということ。逆に言えば、ペラペラでなくてもその試験に即した準備をしていれば、合格あるいはハイスコア獲得も可能だといえます。
英検なら、頻出語句を覚え、問題文の傾向を知ることや、エッセイやスピーチの構成の仕方をきちんと学ぶこと。TOEICならビジネス関連の表現や、選択肢先読みのテクニックを知っておくこと。そういったトレーニングの有無が、ダイレクトに結果に関わってくるのです。
考えてみてください。日本語のネイティブスピーカーなら誰でも、大学入試の国語試験で満点が取れるでしょうか?「発展途上国の経済問題」とか「遺伝子組み換え技術の是非」などの難しいテーマで、突然小論文を書けと言われたらどうですか?日本語で書いていいと言われても、難しいはずです。英検で合格点を取るには、英語力のみならず、そういった準備・学習も必要だということがおわかりいただけるでしょう。
英検1級は「ゴール」ではない
いずれにしても「英検1級」すなわち「ネイティブスピーカー並みの英語力」とはいえない、というのが私の経験上の答えです。たしかに、英語学習者にとって英検1級は憧れであり、いわば「学習のゴール」と思われているかもしれません。しかし英検1級とひと口に言っても、ビジネスの現場でプロの通訳として活躍している人もいれば、ギリギリラインの合格者もいるでしょう。試験である以上、合否は当日のコンディションにも左右されますし、得意分野のトピックが出題されたりすれば、実力以上のものが出せることもあります。そういう意味では「運」もあるかもしれませんね。
では帰国子女レベルに近づこうとするならば、どうしたらいいのか。当り前のことかもしれませんが、結局はどれだけ多く英語に触れ、学んでいけるか、ではないでしょうか。私の場合、1級に受かった後、その先がさらに広いことに気がついたという感じです。「ゴール」どころか、受かったことで「もっと勉強しないと…」という気持ちがさらに強くなりました。
ちまたでは、幼少期に学ばなければネイティブに近づくことはできない、という「臨界期説」を耳にすることがありますが、その一方で「成長してからでも語学能力は伸ばせる」という説もあるようです。可能性を信じてひたすら続けてみる…地味なことですが、それが上級者への最も確実な道なのかもしれません。
翻訳者・堂本秋次が『英検1級に合格するレベルならTime、Newsweekクラスの雑誌は辞書なしでスラスラ読めるのか』という疑問に答える