「成績が上がらない」というクレーム
塾はサービス産業なので、ほかの業界と同様、“お客様”である保護者から要望やクレームは多々あります。最もよく聞くクレームは、「全然成績が上がらないんですけど…」というものです。「講師の教え方に問題があるのでは?」とも。
ですが、講師だけに問題があるというケースは少ないです。成績を上げるには、塾と保護者と生徒自身が、それぞれに努力し連携する必要があります。塾や親だけがしゃかりきになってもダメ。生徒自身に「成績を上げたい」という気持ちがなければ、芳しい結果は得られません。授業中も集中できず、問題を解かせてもこっそり解答を丸写し…そういう生徒さんも残念ながらいますし、また親に内緒で遅刻・仮病・無断欠席のケースも…。そんな状態では、成績向上など無理な話です。
成績上がらないなら返金?
しかし高額な塾の費用を捻出している親のほうは必死です。「これじゃ何のために高いお金を払っているのか…」と愚痴が出るのも当然でしょう。「月謝を返してくれ!」という本気のクレームは、私は幸い直接聞いたことはありませんが…噂では「成績上がらないのでやめます」と月謝を踏み倒したまま退会、音信不通というケースもまれにあるようです。
実際、「成績が上がらなければ返金」というシステムの塾も存在します。しかし、こういったシステムには必ず「週○コマ以上受講」「宿題はすべてやってくる」「指定教材を期日までに完了」などの条件が設定されているものです。それがクリアできるなら、そりゃあ成績上がりますって…という内容ですから、返金対象になる生徒さんは、そうそういないでしょう。
塾の立場から見ると…
いっぽう塾講師のほうから言わせれば、「成績の上がらない子は追加料金がほしいくらい」というのが実際のところです。
なぜなら、成績のいい子・学習意欲の高い子は、講師から見ると本当に手がかかりません。宿題は必ずきちんとやってくる。マルつけもていねいにやってある。間違えたところを自分なりに見返し、質問があればまとめてくる。いちいち指示しなくても、みずから解説を読んでワークブックもどんどん解こうとする。こういう生徒の場合は、わからないところを自分から「先生、この単語の “s”はどうして必要なのですか?」と要点をしぼって質問してくれます。教えるほうも、疑問点がはっきりしているので教えやすい!こういう生徒ばかりなら、だまって生徒の横でスタンバイしているだけでOK。来そうな質問を予測して、「こう聞かれたらこう説明してやろう」などと考える時間もとれます。
手のかかる生徒は大変
しかし基礎が身についていない子の場合は、一問解かせるのもひと苦労。「面倒くさい~、わからない~」とぐずぐず言う子をちゃんと座らせ、問題文を一緒に読む。それでも設問の意味を読みとれないので、解説する。「わかりました」と言うので隣の子に目をやったとたん、すかさず机につっぷして寝るツワモノも…。「○○くん、起きて!」と声をかけるものの、気安く肩もたたけません。生徒に下手に触ると、セクハラだの何だのというクレームになりかねないご時世です。「不用意に生徒に触らない」というのは、きちんとした塾なら常識です。
そんなわけで、「成績が上がらなかったら返金」よりも、むしろ「成績のいい子は割引」のほうが、合理的な気がします…。一部の塾では、特待生という形で実際にこのような割引制度があるようです。トップ校に合格できれば塾の実績となり、宣伝効果が見込めるからですが…あまり大っぴらにしているところはないですね。入塾テストなどの成績次第で、水面下で勧誘…というパターンのようです。
トラブルには歩み寄りが必要
個別指導塾の場合は、特殊な事情を抱えている生徒さんをお引き受けすることも少なくありません。単に成績が悪いだけではなく、たとえば不登校気味とか、または発達障害・学習障害の疑いとか…。前もって配慮をお願いされることもありますが、ときにはコミュニケーションがうまくいかず、授業のすすめ方などでトラブルになることもあります。
こういった生徒さんを担当するのは、正直に申し上げて、大変です。しかし、だからこそやりがいを感じる講師も少なくありません。難しい生徒を受け持つことは、講師にもなんらかの気づきを与え、成長させてくれるからです。
塾に対して「教え方が悪いのでは?」「講師を替えて!」といきなりクレームを言う前に、まずは教室長や、担当の講師を交えて面談してみることをおすすめします。そして講師からお子さんの様子を聞いたうえで、要望を伝えて話し合ってみてください。塾側は、保護者とはまた違った、客観的な視点から生徒を見ているので、有意義なアドバイスが得られる場合もあるかもしれません。互いに歩み寄ることで、きっと双方にとってよい結果につながることでしょう。
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