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翻訳者・堂本秋次の『奥深い英文の「コンマ」の世界~句読法について~』

英語学習では、文法について学ぶ機会があります。しかし、文法を学ぶ際に句読法について触れた経験がある学習者は少ないのではないでしょうか。

不思議なことに、英語学習の中でこうした句読法についてはほとんど触れられていないようです。コンマをどこに打てば良いかなど、恐らくほとんどの人が感覚的に決めているのではないでしょうか。

ここでは、英語の句読法、特にコンマに焦点を当ててみましょう。

コンマの持つ役割

コンマの用法

まずはコンマがどういうときに用いられるのか、整理してみましょう。

1. 羅列する際に
2. 接続詞と一緒に
3. 省略された内容の代わりに
4. 直接話法の直前に
5. 間投詞や呼びかけをそれと区別するために
6. 挿入句であることを示すものとして

もしかすると、コンマの用法の多さにこの時点で驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。多くの人にとって、コンマは「文章を分けるためのもの」程度のものと考えられているからです。

ここでは、特に一般的に用いられる傾向にある1番と2番について深く掘り下げてみましょう。

羅列する際に用いるコンマ

I have 3 favorite fruits: Apple, orange and grape.

この英文のように、ものを羅列する際にコンマを用いることができます。ここでは、コンマを用いないとAppleとOrangeが「Apple orange」という名詞に見えてしまうことから必要と考えられるものです。

羅列する際のコンマには一つ厄介な問題があり、「オックスフォードコンマ」などと呼ばれています。これは、andでものを羅列する際に、andの直前にコンマが必要かどうかという論争です。一般にはオックスフォードコンマは句読法としては正しくないとされており、事実、上の例では不必要と言えるでしょう。しかし、以下の例ではどうでしょうか。

I had a party last week. I invited Tom, a dancer and singer.

ここでは、Tom、dancer、singerが羅列されているように見えます。しかし、この英文では、「ダンサーであり歌手でもあるTomを誘った」のか、「Tomとダンサーかつ歌手である別の人も誘った」のか、「Tomとダンサーと歌手を3人誘った」のかが不明なのです。ここでオックスフォードコンマを入れると次のようになります。

I invited Tom, a dancer, and singer.

これで少なくともダンサーと歌手が同一人物ではないことは明らかになりました。このように、オックスフォードコンマを用いることで一部の曖昧な文章をより分かりやすい意味にすることが可能です。しかし実際には、オックスフォードコンマを用いなくても次のようにすることでそれぞれの意味を使い分けることはできます。今では、オックスフォードコンマはスタイルの問題として考えられている節があるようです。

I invited 3 persons: Tom, a dancer and singer.(3人を誘った)
I invited Tom, a dancer and a singer.(3人を誘った)
I invited a dancer and singer named Tom.(Tomだけを誘った)
I invited Tom, who is a dancer, and a singer. (Tomと歌手を誘った)

接続詞と一緒に

文章の節と節をつなげる接続詞と一緒に用いるパターンです。andやbut、yetなどの前に入るものがこれに当たり、最も馴染みのあるものではないでしょうか。これに関しては大きな問題が起こることは少ないのですが、特にandを用いる際に省略されることもあります。省略するときは、主語が一致しているパターンが多いようです。

I watched the movie and enjoyed much.
I watched the movie, and I enjoyed much.
I watched the movie and I enjoyed much.

上の3つについては、どれも文法的には間違っていません。しかし、同じ主語が2度、間をあけずに出てきてしまっているので、最も読みやすいのは最初の例文であると言うことができるでしょう。一方で、次の例も見てみましょう。

He broke the promise, and she cried.
He broke the promise and she cried.

今回は、andで並列されている文の主語が前後で違います。この場合、どちらのパターンでも良いとされていますが、次の例も確認してみましょう。

He was insisting that we should scrutinize the cause of the defective products and the representative of the customers was complaining on the purchase in the meeting.

ここでは、andが繋いでいるのが文章なのかthat節なのかが明らかではありません。つまり、以下の2通りの解釈が可能なのです。

1. He was insisting that we should scrutinize the cause of the defective products in the meeting. And he was also insisting that the representative of the customers was complaining on the purchase then.

2. While he was insisting that we should scrutinize the cause of the defective products, the representative of the customers was complaining on the purchase in the meeting.

もしも1の解釈の場合、andの前にはコンマを置かず、andの後にthatを付けると分かりやすくなります。

He was insisting that we should scrutinize the cause of the defective products and that the representative of the customers was complaining on the purchase in the meeting.

2の解釈が正しい場合は、andの前にコンマを置くと分かりやすくなるでしょう。

He was insisting that we should scrutinize the cause of the defective products, and the representative of the customers was complaining on the purchase in the meeting.

おわりに

英語は日本語よりもコンマの打ち方がある程度決まっていると言われることもありますが、実際には色々な打ち方があり、それによって意味が変わってしまいます。法律の解釈などではコンマの位置が問題になることも珍しくありません。

仕事でなければ、英語の法律を自分で読み込む必要がある場合というのはあまり好ましい状況ではないと言えるかもしれませんが、こういったことについて普段から考えておくのは無駄ではないでしょう。特に英作文をする機会がある人は、コンマの句読法について少し考えてみると良い文章が書けるかもしれませんね。

ちなみに、今回の記事はEat, Shoots & Leavesの一部を参考にして執筆されています。洋書(かつイギリス英語)ですが、ペーパーブックになっているので、英語の句読法に興味がある人は一読してみるのをオススメします。日本語訳も存在するようですが、こちらはあまり評価が高くありません。

Eats, Shoots & Leaves: The Zero Tolerance Approach to Punctuation

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堂本秋次

堂本秋次

実務翻訳者、プロマジシャン。英検1級、国連英検A級、TOEIC965を保有。大学時代は、ネイティブスピーカーの教授の指導のもと、言語学を専攻していた。医学、自然科学等を専門とする多芸多才な翻訳者。 詳しいプロフィール / 記事一覧

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